音楽著作権

音楽業界の権利関係

                    

三者の関わり

 
 さて、ここでようやく先ほどの三者の法的関係を整理してみます。
 なお、ここで触れるのはあくまで従来から行われてきた音楽業界の典型例ですので、近年の音楽にまつわる諸問題とは違った事情も多いですが、基本としてまずはメジャーの音楽業界の法的関係をみていきましょう。

 まずⅰアーティストはレコード会社と「録音契約(専属実演家契約)」という契約を締結します。これは先のアーティスト2種のうち、主に(2)実演家に関わる契約です。
 内容としては、CDを作成するにあたり、自身の歌唱や演奏を複製・放送許諾等する権利をアーティストからレコード会社に譲渡する契約です。これでレコード会社等は自由に契約アーティストの実演を録音したり、放送などを許諾することができるようになりますが、その対価としてアーティストはレコード会社から印税を受け取ります。

 なお、この契約で移転するのは法的にいえば複製権(録音権・録画権含む)、送信可能化権、貸与権、これらに関する報酬請求権、二次使用料請求権、私的録音録画補償金請求権になります。

 それではアーティストのうち(1)の作詞・作曲者の権利はどうなるのでしょうか?
 一般的に耳にする印税というのはこちらの「作詞・作曲」に関わるものが大多数ですから、こちらも何らかの契約が行われているように思えるでしょう。
 結論からいうと作詞・作曲者はⅲ音楽出版社と「著作権契約(著作権譲渡契約)」を締結します。

 意外かもしれませんが、作詞・作曲者は、その曲の著作権を音楽出版社に譲渡してしまうのです(というより気付かないうちに譲渡させられてる場合もあります)。著作権は経済的利益をもたらす最大の権利ですが、メジャー業界ではアーティスト自身が有しているのではなく、音楽出版社が有していることが普通となっております。
 その根拠はアーティストは作詞や作曲をすることが得意でも、その曲を活用して経済的利益をあげることができないでしょうということになっております。著作権のもつ複製権、公衆送信権などの管理は非常に大変なので、これらの管理が専門の音楽出版社に任せてしまいなさいという理屈です。音楽出版社は、プロモーション活動や管理、計算書の発行や印税の分配などを一手に引き受け、そして作詞・作曲者が譲渡した著作権の対価として印税を受け取る仕組になります。

 ここで「あれ?著作権の管理って、JASRACがしているんじゃないの?」と疑問を持たれた方もいるかもしれません。これは間違った考えではないのですが、じつは一般にいわれている印税というのは、ここまでで述べたような会社とアーティストの間で締結される契約によって生み出されるものであり、JASRACが関係者に分配するものとは別物です。
 JASRACが関係者に分配しているのは「著作権料」と呼びます。著作権料はJASRACがCDの売上応じて徴収し、著作権者に分配するものになりますが、著作権はアーティストと音楽出版社との間ですでに譲渡されているために「アーティストではなく、音楽出版社」なのです。この誤解が多くのアーティストの悲劇にも繋がっております。

原盤権

 
 さきの内容でアーティストとレコード会社、アーティストと音楽出版社の関わりを見てきましたが、ではレコード会社と音楽出版社はどのような関わりがあるのでしょうか。

 レコード会社はレコーディング・プレスの資金を捻出していると述べましたが、あわせて音楽出版社も資金を提供する場合があるとも述べました。実はこの事実が、また複雑な権利関係を生じさせます。
 そもそも、CD(レコード)を新しく制作し、発表しようとする場合、このCDの基となる音源(マスターといいます)にかかる制作費として、スタジオ使用料、ミキシング・マスタリング等の編集室やエンジニア料、CDプレス費、ジャケット等印刷代、場合によってはスタジオミュージシャン報酬や、編曲料など様々な費用が発生します。

 これらを総称して原盤制作費と呼びますが、かつてはこの原盤制作費をレコード会社のみがすべて負担することが普通でした。  そして、この原盤制作費を負担するというリスクを負った見返りとして法律は原盤権という一般的な著作権とは違った権利を認めています(「レコード製作者の権利<第96条~第97条の3>)。
 つまり、CDを売り上げたうちの何パーセントかを印税として受け取る権利を有する訳です(相場ではプレス、ジャケット代を含めない場合で10~14%程度)。

 このようにレコード会社のみが資金を捻出し、原盤権を100%保有するケースを自主原盤と呼んだりもしますが、レコード制作時に、音楽出版社が資金を提供するケースも少なくありません。
 そこでそのような場合は、先に述べた原盤権の印税を提供した資金の割合に応じて保有する形態も多いのです。これを共同原盤といいます。なおメジャー業界では、共有されている原盤権も後々契約によってすべてレコード会社に譲渡されることが多いです。

 最後に音楽出版社が100%資金提供するケースです。この場合もレコードを複製頒布するのはレコード会社だったりしますので、レコード会社は音楽出版社との原盤供給契約等に基づき、原盤印税を支払って複製頒布権を取得することになります。このような形態を外部原盤と呼び、古くは渡辺プロが始めた方法になりますが、近年では海外で制作された外国原盤、や洋楽などの海外レーベル商品など、外部原盤の例が非常に多く見受けられます。また、このように外部原盤といっても必ずしも、音楽出版社が行うものではないことにも注意が必要です。
                   

レコード(CD)売上の内訳

 
 筆者の個人的な考えでは、バンドは演奏活動によって利益を稼ぐことが大切で、CDの流通というのは自分達の営業ツールのようなものなのですが、とはいっても例えばアルバムが300万枚売れたら、アーティスト印税だけでも9,000万も儲かるから・・・。なんていう人もいるかもしれません。

 ここで、レコード(CD)の売上からの利益(印税)などの配分を見てみましょう。メジャー業界の相場を表にすると以下のようになっております。
 原盤印税やアーティスト印税・著作権料は先に説明したとおりですが、CDの売上からはプロデューサー印税や、販売店、レコード会社・流通会社などのマージンなども含まれております。

原盤印税 アーティスト 1~2%
プロデューサー 1~2%
プロモーター 1%
他  9~11%
著作権料 6%
レコード会社利益 8~10%
制作費用等 18~20%
販売店マージン 30~35%
流通マージン 5~10%
返品(再販制度) 10%程度
 原盤印税やアーティスト印税・著作権印税は先に説明したとおりですが、CDの売上からはプロデューサー印税や、販売店、レコード会社・流通会社、事務所・レコード会社などのマージンなども含まれております。

 この表を見て、どのような感想をお持ちになりますでしょうか。
 一般的なイメージはメジャー流通のCDといえば、バンド(アーティスト)の作品という感覚ですが、「商売」という観点から見れば、バンド(アーティスト)というのはたった数パーセントの存在になってしまうのです。

 逆にレコード会社や流通会社、レコード会社などのマージンが半分以上も占めていることを見れば、レコード(CD)というものがヒットする背景には、半分以上もアーティスト自身以外の力が影響しているということも見てとれます。
 こう考えると、皮肉でもなんでもなく、メジャー流通で300万枚の売上を目指すのではなく、自分達でイニシアチブを握って3~5万枚の売上を目指す方が、よっぽど簡単に9,000万円の利益を上げることができるわけです。

 実際、2011年で年間売上上位のジャニーズやアイドルグループでも100万枚の売上に届いておりません。
9,000万円という極端な目標は置いておいても、健全にバンドやアーティストが音楽活動で食べていこうと思うと、これからの時代、必ず著作権を初めとした自分達の権利関係の保全が必須課題となります。
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