契約書の知識

契約書の完成

契約書の製本

 
契印とは  きちんとした契約書を作成した場合、その枚数が二枚以上になることは多々あります。この場合、一種類の契約書がどれとどれなのか分かるようにホッチキスでキッチリと止める必要がありますが、これでは あとからホッチキスを外して差し替えることは容易です。
 
 たとえば三枚の場合、三枚目は契約当事者の署名・押印がありますが、一枚目と二枚目は簡単に入れ替えることができ、不利な内容に変えられてしまいかねません(もちろん、当事者それぞれが同じ原本を保管しますが、どちらが本物か証明できません)。
 そこで、数ページの契約書を作成した場合は、必ず契約書に契印(けいいん)をしてください。契印はそれぞれのページの見開き中央部に(別に上部や下部でも問題はありません)キッチリと印影が途切れないように押印するものです。

契印例1

袋とじによる製本  これで契約書の差し替えリスクは大幅になくなります。ただ、この方法ですと契約書が十数ページに渡るような場合に当事者がそれぞれ十数回契印しなければならず、非常に大変です(実は一枚だけでも、印影がキッチリ写るように押印するのは大変です)。
 そこで、契約書を袋とじに製本する方法がよく取られます。袋とじとは複数の文書をホッチキスで綴じるだけではなく、綴じた部分に契約書よりも長い(A4サイズの場合は長さ36cm、幅6~8cm程度)の紙で糊付けして書籍のように製本する方法をいいます。
 ただし、最近では簡易な製本テープ(一般的なビニール状のものではなく、契約書用の紙状のもの)で製本する方法も多く当事務所もよく活用します(下図参照)。
 製本した契約書であれば、製本テープの部分に契印することで、全ページの差し替えを防ぐことができますので、それぞれの見開きに契印する手間が省けるという訳です。  

契印例2

 なお、この場合の契印ですが、正式な袋とじであれば裏表紙の綴目のみ当事者が契印すれば良いとされていますが、製本テープを使った場合は、表表紙、裏表紙ともに契印しておく方必要があるので、注意してください。
 
契印と割印    また、余談ですが「契印」と似たものに「割印」というものがあります。これらを混同されている方も多く「袋とじにしたので割印は裏表紙のみで・・・」と言われる方も結構います。
 ですが「割印」というのは、本来的な意味では別々の独立した文書でありながら、それぞれ関連した内容である場合にそれぞれの文書を合わせ、少しずらして押印するものになります。ただし、場合によっては正本と副本(つまり内容は同一)の文書を割印することもあります。いずれにしても一連の文書が一体であることを示し差し替えを防ぐためのものが「契印」、独立した文書の関連性を示すものが「割印」と覚えてしまいましょう。

割印例

                    

押印について

印鑑の種類  契約書を交わすといえば、署名と押印がすぐにイメージされます。ですが、押印と言っても実は様々な印鑑がありますし、押印の方法も先に書いたような契印や割印をはじめ、様々なものがあります。
 そこで、まずは印鑑について説明します。我々に馴染み深い押印ですが、実は海外の契約現場ではあまり用いられず、もっぱらサイン(署名)のみで行われることが多いのです。その理由は筆跡鑑定により本人確認ができるので、偽造されにくいというものですが、ちょっと我々日本人の感覚ではビックリです。日本人は海外にくらべ「安心感」や「信頼」を重きに置くからです。
 ただ、日本においても法的な場面、例えば裁判で「署名と書き判」あるいは「拇印」などでも契約書としての効力は有効とされますので、契約書に用いる印鑑は原則的には何でも構わないとされ、実印はもちろん、認印、人によっては100円均一で購入したシャチハタを押す人さえいたりします(汗)。
 それでは、契約書に押印する際に用いうる印鑑をみていく前に、まずは下記をご覧ください。
 
実印 住民登録をしている住所地の役所において印鑑登録されている印鑑をいい、個人の場合は、実印が法律上の権利・義務の発生に関して最も信頼性が高いとされます。一般的には姓と名、両方を用いて作成しますが、女性の場合は名のみで作成されているケースも多いです。
認印 実印とは反対に、印鑑登録をしていない印鑑をいい、日常のあらゆる押印に用います。いわゆる銀行印やスタンプ型の簡易印鑑も広義で見れば認印になります。一般的に姓のみで作成されています。
会社実印(法人実印) 別名「代表者印」。本店所在地の法務局へ印鑑登録されている会社(法人)の実印をいいます。法務局において登録されていることから、法人における法律上の権利・義務の発生に関して有効性の高いものです。一般的には法人の種類と法人名で作成されます。
角印(会社の認印) 四角形の中に法人名を彫刻して作成されます。個人の認印同様、契約書にも用いられることがあり、取引の際は信頼性の見極めが重要となります。
どの印鑑を用いるか  本サイトの「契約とは」では、契約は2つの意思の表示の合致によって成立するので、契約書に署名・押印等をしてはじめて成立するのではなく、口約束だけでも成立するということを書きました。しかし、これはあくまで理屈上であり、同じく本サイトの「契約書を作成する」ページでは、契約書は将来的に契約内容について食い違いが発生した場合の証拠となるということを書きました。
 上記の解説にある「信頼性が高い」という表現は、この証拠力としての信頼性のことをいいます。また、民事訴訟法228条4項には「私文書は・・・署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と規定されており、署名か押印があれば、その者の意思表示が真意としてなされたものであることを推定するとしています(推定なので、裁判上で偽物であることを証明すれば覆りますが・・・)。
 つまり極端に言えば押印だけでも、その者の真意の証拠として扱われますから、本人のものであると高く信頼できる印鑑を用いる方が、契約の相手方により安心感を与えることができるのです。
 個人の場合であれば、実印を用いて、さらにその実印が正式に印鑑登録されていることを、その場で確認できるよう住所地の役所が発行する「印鑑証明書」も合わせて提示するなり、契約書に綴じるなりすれば、間違いないという訳です。
 企業間の契約でしたら、もちろん会社実印です。その場合は、法務局が発行する「印鑑証明書」を用います。
 
押印の種類  それでは最後に、押印の種類を見ていきます。なお「契印」「割印」は先に解説しましたので省略します。
 
訂正印  契約書の欄外などに、印鑑が押印され「加入2字」「削除1字」のような書き込みがあるものをご覧になったことがあると思いますが、訂正印はこの加えた文字、削除した文字の数を証明するものです。基本的に訂正した者自身が押印し、書き込みます。当然これらが合致しないと偽造されている可能性がある訳です。
 実際に訂正した箇所には、元の文字が分かる範囲で二本線を引きます。なお、句読点や「-(ハイフン)」などの記号も文字数にカウントします。また、訂正個所の上部に押印するケースも多く、信頼性の点でオススメです。
 なお、押印する印鑑は必ず署名押印で用いた印鑑で行わなければなりません。一人のものでも行えますが、もちろん当事者全員分ある方が理想です。

訂正印

捨印  よく契約書に署名押印する際「欄外にも押印お願いします。」といわれますが、これは後日に訂正個所が発覚した場合に再度、訂正印をもらうのが手間なので、あらかじめ訂正印用に備え押印しておくのが「捨印」です。
 この場合、相手方が自由に内容を訂正できることになってしまいますので、よっぽど信頼している相手でない場合は、行うべきではありません。

捨印

消印  名前は捨印と混同しやすいですが、役割はまったく違います。
 消印は、文書に収入印紙を貼った場合に、文書と印紙にまたがって押印されたものをいいます。これは法律上の義務になりますので、必ず忘れないようにしてください。消印は署名押印で用いた印と同じものである必要はありません。

消印

<<前のページ       次のページ>>